古事記考
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ちょっと前に古書店で入手した、
『新訂古事記』武田祐吉訳注/中村啓信補訂・解説(角川古典文庫)を読了。
いやー面白かったー。

教科書的な認識としての古事記は
「奈良時代に書かれた日本最古の歴史書。
稗田阿礼が暗誦した史実を太安万侶が書き記したもの」だけど、
間違ってもそんな固いもんじゃないです。
どちらかと言えば古老の語るむかしばなしの記録に近い。
グリム童話みたいなもんですね。

一応の流れとしては、
推古天皇(33代)に至るまでの天皇家の起源と各々の治世の出来事ってことになる。
だからおしまいの方は私たちも周知の歴史が顔を出したりもする。
以下、たわむれに山岸涼子『日出処の天子』と照合してみました。

29代欽明天皇の子供たちのとこに出てくる、
間人の穴太売の王(はしひとのあなほべのおおきみ)は聖徳太子のお母さん。
山岸作品では穴穂部間人媛として出てくる人ですね。
人名表記に異同があるのはどっちが正しいってことはないです。
何しろ同じ人が古事記の中で既に違う字で書かれてたりするんで。

で、その異母兄の橘の豊日の命(たちばなのとよひのみこと)が後の用明天皇で、
これが聖徳太子のお父さん。
兄妹で結婚してますがお母さんが違うので問題ナス。
血のつながらない妹と結婚し放題の時代です。
斑目君大喜びだな。

もっともこれが同母兄妹の場合は立派な禁忌となります。
19代允恭天皇の後嗣であった筈の木梨の軽の王(きなしのかるのおおきみ)は、
同母妹の軽の大郎女(かるのおおいらつめ)と通じたために人心を失い、
焦って兵を挙げて弟の穴穂の命に討たれました。
この穴穂の命が20代安康天皇にございます。
許されざる思いに焦がれ兄の後を追った軽の大郎女は、
御身の放つ光が衣服を通すばかりであったことから、
衣通しの郎女(そとおしのいらつめ)の異名をとった御方でありました。
はるか昔の禁断の恋のものがたりでございます。
かしこみ、かしこみ。

聖徳太子関連に話を戻しますぞ。

欽明天皇の後を継いだのが、
その息子の沼名倉太玉敷(ぬなくらふとたましき)の命、世に言う敏達天皇です。
この人のふたりめの奥様が豊御気炊屋比売(とよみけかしきやひめ)の命
いわゆる額田部皇女であり後の推古天皇なのでした。
山岸作品では点々マユゲだけど、
日本書紀によれば姿色端麗らしいですよ。

額田王は敏達天皇との間に何人も子をもうけておりますが、
日出処の天子に出てくるのは竹田の王貝鮹(かいだこ)の王くらいかな。
竹田王子は太った汗っかきの皇子です。
漫画では物部との戦に駆り出されて傷を負って亡くなられました。
史実ではフェイドアウトしちゃってて生没年とか不明な模様。
いまひとりの貝鮹の王は一名を菟道貝蛸皇女(うじのかいたこのおうじょ)ともいい、
後に聖徳太子の御后となりました。
山岸先生はセックスレス夫婦として描いてらっしゃいますね。
厩戸王子ホモやけんしゃあないな。

そして敏達天皇の没後、即位したのが先述の31代用明天皇。
皇后が穴穂部間人媛。
息子たちにはちゃあんと厩戸の豊聡耳(うまのどのとよとみみ)の命や、
久米の命の名前が見えます。
後者は漫画では来目王子となってる目のくりくりした太子の弟さんですな。

日出処の天子はこのあたりから後の皇室周辺の話になります。
即位後わずか2年で用明天皇が薨去した後、
穴穂部王子のクーデターを経て泊瀬部王子
(古事記では長谷部の若雀(はつせべのわかささぎ)の命、崇峻天皇)が即位。
しかしかれは東漢直駒(やまとのあやのあたいこま)の手によって暗殺され、
額田王が推古天皇として33代目にして初の女帝として即位するのでした。

なんかね、漫画で見なれた名前を史書で見るとおもしれいです。
うわあ本当にいたんだなあとか思うよ。
史実を基にして描いてんだから驚く方が逆なんだけど、なんかね。

このようないかにも史実っぽい後半部分と、
大国主命が因幡の白うさぎ助けたり、
イザナミ神が火の神産んで陰部焼けて死んじゃったりする前半部分が、
なんだか無理なく続いてるのが凄いと思った。
学術的にはこの前半部分(上つ巻)は神話として分けられてはいるんだけどね。

ミもフタもないことを言えば、
古事記は天皇家という一族が、
出自を明らかにするためのテキストとして成立したわけです。
「うちらは元々神様やってんで。おまいら崇めんかーい」っていう。
だけどその問題の神様たちがいかにも偉くないのだ。
素朴っていうかおおらかっていうか。

先のイザナミ神は夫イザナギと並んで日本作った最初の神様です。
日本書紀に出てくるその婚姻譚は以前に漫画のセキレイのお話でも触れましたが、
古事記はもっとシンプルで投げやりだ。

何しろ最初の夫婦なので結婚の仕方がよくわからん。
だんなが奥さんに問うて曰く、
「汝が身はいかに成れる」
(君のからだはどんなふうになってるんだい?)

奥様の答えて曰く、
「吾が身は成り成りて、成り合はぬところ一処あり」
(わたしのからだは、できあがって、でも出来きらないところが一か所あるの)

これを受けてだんなの返事。
「吾が身は成り成りて、成り余れるところ一処あり。
故この成り余れる処を、汝の成り合はぬ処に差し塞ぎて、
国土生みなさむと思ふがいかに」

(おれのからだは、できあがって、出来すぎたところが一か所ある。
そこでこの出来すぎた部分を、君の出来きらない部分に差しふさいで、
国土を生もうと思うがどうかな)


奥様の粛々たるお答え。
「しか善けむ」
(それがいいわ)

まったくもってプリミティヴなエロスが展開してるよ。

ただしこの最初の婚姻は失敗し、
『然れども陰処(くみど)に興して子(みこ)水蛭子(ひるこ)を生みたまひき』
の仕儀と相成ってしまいます。
この一文、諸星大二郎読者なら見覚えのあるフレーズであろうかと。
妖怪ハンター沢田研二が闘う相手ですね、ヒルコ。
とまれ夫婦神は黒歴史である水蛭子を葦舟に乗せて流し去ると、
改めて国神たちをお産みになられたのでありました。

このように深く愛し合った両神の思いは、
先に述べたようなイザナミ神の事故死の後も続きます。
ちなみに彼女の直接の死因となった火の神の名は、
火の迦具土(ほのかぐつち)の命。おお、鴇羽舞衣のチャイルドじゃ。
しかしこの産まれて間もないカグツチ神は、
妻を失って狂乱の父イザナギによって哀れにも惨殺されてしまうのでした。

さらにイザナギはイザナミの魂を追って禁断の黄泉の国へと走ります。
が、最後には「我をな視たまひそ」と言われた禁を破り、
亡者となった彼女の恐ろしい姿を見てしまいます。

『蛆たかれころつきて、頭には大雷居り、胸には火の雷居り、
腹には黒雷居り、陰には柝雷居り、左の手には土の雷居り(中略)
…并はせて八くさの雷神成り居りき』


蛆にたかられ八体の雷神を身体中に抱えてゴロゴロ言ってる奥さんである。
百年の恋も醒めるとはこのことか。
腰を抜かして逃げ出しちゃったイザナギ神ではございました。
だけど会いたがって地獄まで追ってったのは自分だし、
見るなって言われたのに約束破ったのも自分だよな。
案の定夫の裏切りに逆上した亡魂は地上に向かって大追撃。
イザナギは大岩で道を塞いでこれを防ぐも、
最終的に泥沼の遺恨含みケンカ別れになっちまうのでした。

男女の仲はいったん拗れると取り返しがつかんものでございます。
どきどきどき。

それにしても自分の先祖がこんな生ぐさい神様であったことを喧伝して、
何かいいことがあったんかいな天皇家。
そう思うと何か好感度が上がったよ。

そんな次第で大変おもしろい古事記ですが、
問題は読みやすい、手に取りやすいブツがなかなか見つからない点かなあ。
私は運良くいいテキストを入手できたわけですが、
岩波文庫版とかなかなか気軽に読みづらい。
本屋さんでパラパラめくってみて「これなら読める」ってものがあったら、
お薦めですよ。

おまけ。
女性声優からのラブレター作成ジェネレータ。
http://yan-cocktail.sakura.ne.jp/love/590/
本名でやってみたら根谷美智子さんに告白されてしまいました。
どうしましょう。
どうもしないよ夢見てんじゃねえよ。

さまざまに潜伏活動中。
がんばります。
【2008/03/11 10:47】 | 未分類 | page top↑
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