おとしばなし
080203.jpg

先日、某先生の御手配で久々に連れて行って頂きました。
第二十六回東西落語研鑽会覚書@有楽町よみうりホール。
タイトルにある通り江戸落語と上方落語の入り混じった噺の会。
両方楽しめてあーらお得。

以下、番組概略。

●『権助提灯』 柳家三三
まったく焼餅を妬かない奥さんと殊勝なお妾さんに恵まれた、
幸福な旦那さんのおはなし。
って書くとだいぶ違うんだけどね。
有名な作品のひとつで、私も活字で読んで知っていたネタである。
生で見ると後半のたたみ掛けが素晴らしい。
権助のうろんな感じの芝居もいい。

三三師匠は小三治師匠のお弟子さんとあって、非常に端正な話し手でした。
好きだな。
調べてみるとまだ33歳。
このくらいの年齢でこれだけちゃんと古典を演じられる人がいると思うと、
門外漢としてはなんだか安心してしまうのでした。

そういや三三さんのときだけ客席の照明が落ちてて、
終わってからはずっと明るかったんだけどなんでだろ。
どういう演出なのかしらん。

●『鋳掛屋』 桂春団冶
『浪花恋しぐれ』にも歌われた上方落語の大名跡は現在三代目。
実は春団冶師匠の高座は学生の頃に見たことがある。
ウチの高校で呼んで来てもらったのだ。
ネタは『代書屋』だったか『子ほめ』だったか。
大昔の話なんでもう覚えてないや。

以来四半世紀。
並び称された文枝師匠も鬼籍に入り、三代目の頭ももう真っ白である。

「古典をそのままの形で伝えようとする」(某先生談)春団冶師匠は、
マクラで簡単に噺の来歴を紹介してから演目に入った。
舌打ち混じりの関西弁で、
壊れた鍋釜を直して歩く鋳掛屋のおやじと、
生意気な子供たちとのやり取りを活写してゆく。
今はほとんど見かけなくなった商売と民俗を伝え残す、
こういうのも古典落語の楽しさである。

言葉自体にも現在は使われなくなったものが混じるため、
早口と相俟ってところどころは何を言ってるのか聞き取れない。
おじいちゃんだしなあ。
ただ、それでも笑わされてしまうのだから凄いとしか言いようがない。

老いたりとはいえ、
噺の途中にさらりと両肩から羽織を落とす粋な仕草はそのままだった。
高校生の頃「綺麗に脱ぐなあ」と感心したのを思い出したよ。

●『あくび指南』 柳家小三治
小三治師匠はイナセの人である。
風貌といい人となりといい喋りといい、
生粋の江戸ッ子であり絵に描いたような噺家だ。
なんつったってハ行の発音がぜんぶサ行になっちまうんだから、
たまんねえや畜生べらぼうめ。
オイラが女だったらもう惚れちまうね。
下敷きに写真いれちまうね。
その程度かよ。

ネタは古典中の古典。
「あくび指南所」であくびを教わる男と教える(「おせえる」と発音したい)先生、
付き合わされた留公の様子を描くシンプルなおとしばなし。
途中にあくびを含めたさまざまな仕草が入るため、
小三治師匠がどう演じるのか楽しみだった。

おはなしの芸である落語における仕草というのはちょっとした見どころである。
「動きで笑わすのは邪道」みたいな考え方もありますけどね。
おなじみ扇子と手拭使ってそば食ったり帳面付けたりとか、
そういうちょっとした所作が洗練されてると、
「おおー」って思うじゃないですか。
仕草で笑わせるってえのもその延長じゃアないでしょうかねえ。
そりゃヘタすりゃ下品になりますけどね。
だからこそ練り込まれた芸で見てみたいと思う。

やってたね小三治師匠。
顔芸で満場の笑いをかっさらってたね。
ザブングルも真っ青だね。
それでもやっぱりカッコいいんだからずるいやね。
生徒手帳にプロマイド入れてもいいと思ったよ。

春団冶師匠主演の映画『そうかもしれない』の宣伝に終始したマクラも面白かった。
小三治師匠も通行人A役で出てるそうで見てみたいが、
それには「ツタヤに行く」「その時に覚えている」「在庫がある」の、
3つのハードルをクリアせなならん。
最後のやつが結構高いような気がするな。
頼むぞツタヤ。

仲入り後

●『茶の湯』 春風亭昇太
昇太師匠は直接の面識はないものの因縁浅からぬ間柄だったりする。
サギサワ先生が昔一緒にラジオやってたし。
大昔近所の商店街でヨタローのロケやってた際にサインもらったし。
自分で色紙買ってサインもらった唯一無二の経験っす。

印象としては「バラエティと新作落語の人」なので、
これまた江戸落語の古典『茶の湯』をどう演じるのかたいへん興味があった。
いやー、さすがでした。
ネタを弄ったりはしていないにもかかわらず現代風なのさ。
たぶん観客とのトークとしての話芸なんだと思う。
対話の中で古典のネタをちゃんと話して聞かせ、
どっかんどっかん笑いを取る。
会場の空気を読み掴み、お客を乗せてゆく芸なのである。
そういう意味では本来古典の人ではないのかな。
でもやっぱりすげえと思ったよ。

内容はけちなご隠居が前の住人のおさがりの道具を頼りに、
自己流で開発した茶の湯のお話。
飲まされたお客たちの苦しみっぷりが楽しい。

20年ばかし前、
「柳昇師匠んとこに昇太っていう面白いのがいて、師弟そろって滑舌が悪い」
と評したのは山藤章二だったかな。
それは相変わらずでした。普通に言い直したりしてたよ。

●『天下一 浮かれの屑より』 林家染丸
染丸師匠は上方落語界の重鎮である。
兄弟子に林家小染がいたが、
1984年のある日泥酔し「わて死にますでー」と車道に飛び出して本当に死んでしまった。
以来、上方の林家一門の総帥をつとめている。

「こないに宣伝ばかりしてやらしいですけど」と言いつつ、
『ちりとてちん』の落語監修・指導、さらに出演してる件をマクラで力説しておられた。
次の御出演は2月18日だそうです。

ネタは紙くずを選り分ける「屑より」の仕事を押し付けられた居候が、
屑に混じる手紙や本、
隣の稽古所から聞こえるお囃子(生演奏)に釣られ、
浮かれて踊り歌い出すという、
いわゆる音曲噺である。

これは凄かった。
面白いとか楽しいではなく凄いのである。
なにしろ義太夫も謡も娘道成寺もなもかも全部ひとりでこなしてしまうのだ、染丸師匠。
こちとらその辺はまったくドシロウトなので、もちろん右も左もわからない。
わからないが凄さだけはびんびん伝わってくる。
一点の破綻もない、これは完成された芸なのだ。

「うわー面白え、ギャハハハ」という笑芸ではない。
だけど後世に伝えてゆきたい見事な伝統のわざであると、
しみじみ感じ入った次第でござるよ。

五者五様にとてもクオリティの高い舞台でした。
あまりのことに通りすがりのホリイ博士に腹にパンチ食らいました。

画像はまったく関係なく取材先の某書店内。
撮影許可は頂いておりましてよ念のため。
【2008/02/03 11:29】 | 未分類 | page top↑
| ホーム |