
もうずいぶん前のことになる。
ある小規模な麻雀大会に顔を出していた。
適当な相手と卓を囲んで個人ポイントを稼ぐシステムなので、
好きこのんで打ち続けている必要はない。
そのとき私は席を離れてカメラマンのTちゃんと話していた。
彼の傍らにはカメラバッグが置いてある。
取材中のカメラマンのバッグというのは、
すぐ中身が取り出せるように大概口が開いているものだ。
開いた口からは大小の交換レンズセットが見える。
レンズキャップが全部外してあるのも、
迅速な交換を可能にするために違いない。
決して閉め忘れやものぐさではなく。
ふと気づくと、
横に突っ立ってバッグの中身を凝視している女性がいる。
「あのー、私最近カメラマンと結婚した者なのですが。
こういうのってフタした方がいいんじゃないでしょうか」
いやいやおっしゃる通りです。
頭を掻くTカメラマンだった。
「なんか気になるんだよね」
女性はけらけらと明るく笑った。
新婚二ヶ月目くらいの頃のりえぞう先生である。
おそらくそれまでの人生で、
バッグの中のレンズにフタが閉まってるかどうかを気にしたことなど、
無かったに違いない。
ダンナさんはと私が聞いたら、
アフガニスタン行ってる、ふざけんなって感じよねと少し複雑な顔をした。
戦地である。
「なんか私新婚二ヶ月で未亡人かも」と続けた、
苦笑混じりの寂しげな表情が忘れられない。
鴨志田さんの戦場ジャーナリストとしての師であった橋田信介氏は、
2004年5月バグダッドで取材中に狙撃を受けてその生涯を閉じている。
記者会見での奥さんの気丈な態度は記憶に新しい。
りえぞう先生もまた、
色々なものと闘い続けた鴨志田さんを見守り続けた、
銃後の妻であったように思う。
子供のように澄んだ目をした戦士だった。
改めてご冥福をお祈りします。