初夏のスピンクス
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この写真を撮ってたら、
メガネかけたC.W.ニコルみたいなヒゲオヤジに声をかけられた。
異人さんである。
日本語を操れないらしく、英語を操れない私と立場は対等だ。
対等だがコミュニケーションを取るのは難しい。

いくつかの要領を得ないやりとりの後、
「あれは何という蛾か知っているか」と聞いてきたのがどうにかわかった。
知ってはいるが英名まではわからない。
とりあえずジャパニーズはオオスカシバと呼ぶと答えた。

「オーオースーカーシーバ」
ヒゲオヤジは復唱し、やおらメモ帳を取り出すとペンを渡してきた。
ここに書けというらしい。
容易いことだ。
日本男児の誇りをもって「オオスカシバ」と大書する。
上にローマ字でohsukashibaとルビを振ったのは惻隠の情というやつだ。

おっちゃんは「オウおすかしーば」などと呟いて頷くと、
その下に読みやすいブロック体で"Sphinx Moth"と書き添えた。

「スフィンクス・モス」

そうだ、思いだした。
英語圏ではスズメガの仲間はスピンクス蛾なのだ。
ポオの短編にメンガタスズメを扱った「スフィンクス(死頭蛾)」という小品がある。

何だか嬉しくなってオウあいのうすふぃんくすモスと返すと、
彼は更にその下に"=Hummingbird Moth"と書き足し、
オオスカシバを指してにかーっと笑った。
なるほどホバリングしながら吸蜜する様子はハチドリそっくりである。
ハミングバード・モスとはよく言ったものだ。

言葉は大して通じなかったが、
異国のおっさんと日本のおっさんは、
青空の下で同じ一匹の蛾を眺めて仲良くニコニコしていたのだった。

平和だね。
【2008/07/02 01:54】 | 未分類 | page top↑
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